Service

ピアノ技術について

コミナミピアノワークスではピアノの修理・メンテナンスやチューンナップに関わる仕事を総合的にとらえたいという思いで、あえて一般的に言い慣わされているピアノ調律師という呼称ではなくて“ピアノ技術者”と名乗りたいと思っています。おおよそ修理、整調、調律、整音に分けて考えることが出来ます。

コミナミピアノワークス

修理について

ピアノは金属、木材、フェルト、革、プラスチックなどのたくさんの部品から作られています。その置かれた環境によってはサビの発生や、鍵盤やハンマーの戻りが鈍い、特定の音がビヨ~ンと残る(止音不良)などの不具合が生じたり、名前こそ可愛らしいですが、ヒメマルカツオブシムシなどの幼虫にフェルトの部品を食われることもあります。稀にネズミにフェルトや木部をかじられたり、水害によって水に浸かってしまったピアノの大修理や、愛着のある楽器の第2の人生のためのオーバーホール(全弦交換、ハンマーやダンパー交換、アクションの組み直しやフレームの金粉の吹き直し)のご相談もお受けします。
また、そこまでの大掛かりな修理でなくても、長年の使用によって、フェルトや革製の部品の摩耗やいびつな変形などが生じることがあります。それらの部品のケアーや新しいものに交換することによって、再び若々しい感触やタッチを求めることができます。ピアノは電化製品などとは違って、製造年数やメーカーに関わらず部品は用意されています。本来、世代を超えて愛着を持って弾き続けていけるように作られているものなのです。

整調とは

なぜか調整のことを整調と呼んでいます。音楽ギョーカイ用語だからでしょうか(笑)。鍵盤の高さや深さを均一に整えたり、アクションと呼ばれる打弦のための機械仕掛けの運動量の調整やタイミングを整えます。これは指の動きをハンマーに伝えるカラクリの部分なので、調整具合によって楽器のコントロール性や弾き心地が大きく変わります。例えば、小さな米粒を摘まむのに長い菜箸を使うかピンセットを使うかほどの違いは主にこの工程によるところが大きいです。鍵盤の動きが鈍く、または重く感じる、または軽すぎる、指に鍵盤がついてこないとかトゥリルが上手く出来ない、タッチにいまひとつ充実感がないなどの場合は様々な要因で整調の具合が変化してしまっていると考えられます。あるフレーズが上手く弾けないのが楽器の整備不良のせいにも関わらず、自分の練習不足と捉えてしまうこともあるようです。本来ならばしなくてもよいはずの実り薄い練習とさよならするためにも。

調律とは

いわゆるチューニング(音合わせ)です。チューニングハンマーという、空港で見つかればややこしくなりそうな道具(笑)で、弦を巻き付けられた金属ピンを回して音程を調整します。と、このように書けば数行で事足りるのですが、『強靭なタッチでも狂いにくい』『音がお辞儀をすることなくどこまでも伸びていくかのように感じられる』『和声(ハーモニー)をあたかも3D映像のように立体的に感じられる』 ― 調律は確かにあると思っています。
さらに、面白くも厄介なことに、イメージの持ち方や調律中の精神状態が怖いほど音に反映されるようです。目指せ!『半眼の瞑想調律』といったところでしょうか(笑)。それでも、とても長い試行錯誤の旅の中でようやく“明かり”が見えてきました。エッセンスだけ披露しますと“楽器に張り付いた音ではなく、打鍵の一瞬のちに立ち昇るアロマにあたる音の成分に耳の焦点を当て続ける“ことでしょうか。あれ?余計わけがわからなくなったかも知れないですね(笑)。

整音(ヴォイシング)とは

マリンバという楽器をご存じでしょうか。学校にあった木琴を想像してもらってもいいかと思います。そのチョコレート色の音板を叩くバチをマレットといいます。マレットの頭にあたる部分には毛糸が巻かれています。でも、長く使ううちに毛玉でモフモフになってきたり、ところどころ穴が開いて中の芯材(プラスチックとか硬質ゴム)が見えてくる場合もあります。ここまでになると、演奏していても音板に当たる箇所によって、音色が柔らか過ぎたりカツンカツンと耳に痛い音色になったりで、買い替えや巻直しが必要になってきます。ピアノの弦を打つハンマーという部品のヘッドも羊毛で作られています。ではピアノの場合は打弦の結果、ハンマーはどのように変化してくるでしょうか。相手は鋼鉄製の強く張られた弦ですからハンマーの弦に当たる部分が圧縮と同時にだんだんと深くえぐられてきます。いわゆる弦溝がついてくる状態です。ハンマーの先端はいい具合に丸く整形されているのですが、この弦溝が深くなるにつれて先端が扁平になってきてしまいます。ハンマーのヘッドは圧縮して作られているので中心に向かうほど固くなっています。つまり、弦溝が深くなっていくということは弦に当たるのは点から線へ、しかもより固い部分ということになってしまいます。こうなってしまうと演奏者がいくらピアニッシモで柔らかな音色を出そうとしても、金属的で耳に障る音色しか出せなくなってしまいます。タイルの床の上を固いヒールの靴で歩くことを想像してみてください。柔らかくそっと歩くことは難しいと思います。あまりに極端に変形してしまった場合には交換という手も考えられますが、その前の段階として、ファイリングといってハンマーを細かなサンドペーパーで整形して先端の丸い形状を取り戻す作業を施し、弦との当たりの精密な調整を並行して行います。その後に先端に針が装着されたピッカーと呼ばれる数種類の工具を用いてハンマーにほど良い弾力とパワーを復元させて、柔らかな中にも芯を感じられるピアニッシモから、空間を満たす神々しいフォルティッシモまで紡ぎ出せるように仕上げていきます。この一連の作業をヴォイシングといいますが、ピアノのキャラクターをも決定付けるとても重要な工程です。ピアノに関する仕事の中でも最もエキサイティングで創造性に満ちたものだと思っています。整調作業や調律はピアノの声を作るに等しいこのヴォイシング(整音)の準備作業にあたるといっても過言ではないほどです。

いちばんお伝えしたい大切なこと

ひとまずこのように区分けしていますが、実際にはどの作業も、あたかも時計の歯車のように噛み合っているとお考えください。特に整音作業においては、ある程度の整調と調律を下地としているので、整音単体だけの作業ではあまり良い仕上がりは期待できないかも知れません。コミナミピアノワークスでは今まで数多くの新規のお客様の楽器を見てきていますが、実際のところ過去に調律だけの作業で済まされているケースがほとんどのようです。そうしますと、それほど年月が経っていないにも関わらず、タッチや音色は劣化してしまい、実年齢以上に古びて荒れた印象の楽器に変貌してきます。ご本人とすれば、定期的に調律をしてもらっているのだから仕方ないのかしらと変に納得と諦めの心境になられているかも知れません。
でもどうか諦めないでください。あなたの楽器にはパワーと若々しくブライトな音色を取り戻す余地がまだまだたくさん残されているはずです。いや、いま取り戻すと言いましたが前言撤回したいと思います。上手くいくと新品のとき以上の多彩な表現が可能になります。ここでは多くは申しませんが、新品のピアノでも量産メーカーの場合、人形作りに例えると、最後に瞳を書き入れるに等しい大事な最終工程でもある整音作業には悲しいほど注力されているとは思えません。出荷され購入いただいたあとはサービスマンである調律師に託されるかたちになりますが、おおかたの場合、毎回調律のみが繰り返されます。ご説明したとおり調律は音程を整える作業で、人に例えると最後の“お化粧”に似ているかも知れません。もしそうであれば前段階としてのお肌の健康を取り戻すことの方が大切だと思われないでしょうか。ずっと“音合わせ”だけで済まされた結果、いちども本来の性能を発揮することなくそのピアノの一生を終えてしまうことになります。とても悲しいことだと思います。
まだ知らなかったあなたのピアノと出会うためにもぜひご相談ください。

 

はじめての方へ(技術料金のことなど)

アップライトピアノ ¥18,000(税別 定期割引あり)から

グランドピアノ ¥23,000(税別 定期割引あり)から

ご縁あってはじめてピアノを見せていただく場合には、可能でしたら蓋を開けてアクションや鍵盤を取り外すところからご一緒に見てもらいながら、現状を確認した上でご相談させていただいています。
お見積りに関しましては、こちらからの一方的なご提示は避けたいと考えています。
経験上、お話を伺う中でおのずと着地点は見えてくるかと思っています。
仮に、詳細な作業料金表などに基づいて算出したりしますと予想外な計算結果になることがありますし、ここはしっかり見るけどここは全く見ないとなると、手間をかけた割には良い仕上がりにはならないようです。以上のような点を踏まえてコミナミピアノワークスでは可能な限り全体的に“網”をかける手法をとって、クオリティーの底上げをいたします。そちらの方が断然コスパは良いかと思います。
お見積りの段階では料金は頂きませんのでどうぞお気軽にお問合せください。

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ピアノの販売について

コミナミピアノワークスはショールームは持っていません。過去にそのようなお誘いがありましたが、技術オンリーでやって行こうという考えもありまして、身の丈にあった生業(なりわい)で良しとしています。とは言えそのようなお話が舞い込んで来ることもあるものです。そのような中、きわめて高いコスパを求められる新しい価値観をお持ちの方には中古の楽器の再調整品をおすすめしています。ご存じの方もおられると思いますが、楽器の振動板となるスプルースという木材は、ある程度使用されて振動を与えられているものは経年による木材の細胞壁のセルロースの変化と併せ持って振動係数が上がってきます。わかりやすく言うと“より軽く振動しやすくなる”ということです。つまり、気になる消耗部品さえ新しいものに交換すれば、労せず良く鳴る楽器が手に入るということでもあります。ヴィンテージのギターやヴァイオリンの人気が高いのはそのためでもあります。見た目においても30~40年前の楽器でも塗装の再研磨を行えば今まで空気に触れていなかった層が“新しい皮膚”となり生まれ変わります。ペダルやメーカーのロゴでさえ新品同様となります。この磨きによるリフレッシュは外注となりますが、今まで数十台のお世話をさせて頂き、喜ばれています。
もうひとつの価値観として近年注目されて来ているのが、ヨーロッパの超本格派メーカーの楽器です。以前は見上げてため息が出るだけの楽器だったものを、今となっては少し古い言い回しかも知れませんが、一点豪華主義的な価値観の現れでしょうか、わりとハードルが低くなって来ている感があります。実際のデータとして、少子化にともなって国産ピアノの売れ行きが減少して来ている中にあって、輸入ピアノの販売台数は驚くことに毎年増えています。
ある意味、高級自動車は外に向かってアピールするものでもありますが、ピアノは外に出すものではありません。きわめてパーソナルに良いものを楽しみたいと思われる願望の現れではないでしょうか。

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