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本日の独り言

日常 2022.01.07

ピアノワークス文芸館

パリのアパートメントに仲睦まじく暮らす姉妹。
お姉さんはそれなりにお年頃。あたかも2人の男友達の間に揺れ動くスミレ花。
さてさて、なにやらドミニクから送られて来たようですね。気になりますねー。

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そんなある日、ドミニクからひと抱えもありそうな大きなお届け物が送られて来た。
なんとそれは数週間前に狩で捕らえたという獣の剥製であった。たびたび自慢の剥製のコレクションを見にいらっしゃいと誘われてはいたのだが、佳き返事をしない姉に対しての少しばかりの実力行使のようだった。
ドミニクの音楽の話しならば言わずもがなの大好物なのであるが、姉には獣の匂いがどうも苦手なのであった。添えられた手紙には、このたびの狩の朝は久々にカラヤン指揮の『ワルキューレの騎行』を大音量で聴いてからの出陣の甲斐あってか、ずいぶんと大物が仕留められた旨がしたためてあった。今まで、ドミニクからは博学且つ紳士的で思慮深い印象しか受けていなかった姉は、結構単純に憧れと羨望の眼差しを向けていたのだった。しかし、このあまりにベタな選曲と子供っぽいはしゃぎようには自分でもびっくりするくらいにドミニクに対する“熱”が冷めていくのがわかった。それと共にそばで口をあんぐりと開けたままの妹の表情からも一瞥で何を言わんとするかが読み取れた。
それならば一気にマチューに決まり!と行きたいところだが、ついさっきまでマチューのオススメの曲を立て続けに聴いていた姉に妹が何気なく言い放った。「それって結局、マチューがメメント爺さんに教えてもらった音楽ばかりなのじゃない?」決して皮肉を含んだ言葉ではなかったのだけれども、姉にはこのひと言だけで自分の立っているほんの小さな世界くらいは俯瞰して見るのに十分であった。
マチューは気の良い都会のお洒落な青年ではあるが、メメント爺さんの後を追っ駆けることで背伸びしたがっているだけかも?と。私にとって彼は言わばメメント爺さんのメッセンジャーだったってこと?と。「メッセンジャー・・・、マチュー・・・。」
以来、姉のドミニクとマチューに対する“お熱”もすっかり冷めてしまうのであった。
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ところが、数週間後。
サクレクールのカフェでは、姉妹がまるで餌をねだるひな鳥たちのようにメメント爺さんから森羅万象の話を貪るように聞き入っている様子をたびたび目にするようになるのである。
おあとがよろしいようで。