Journal

本日の独り言

音楽 2022.01.23

異色なモーツァルト ピアノソナタ K.545 ハ長調

“異色な”と書くと普通とテンポの解釈のまるで違うグレン・グールドかな?と思われそうだけどそうではなくて・・・。
こちらはブラジルの超異色音楽集団《UAKTI》(ゥアクチ、ウアクチ、ワクチ)による演奏。
彼らはフルートなどごく限られた楽器以外はほとんど独自に製作しているのだ。
例えば、ガラスで音盤を作ったマリンバや極太の塩ビ管を音階上に並べてスリッパのような(笑)もので口の部分を叩くユーモラスな打楽器。(この曲ではベースを担当)
それに、巨大なひょうたんに針金の弦を張った木の棒をぶっ刺したキテレツな創作楽器。(途中から入って来る二胡のような楽器がそれ)
そんな、見た目の面白そうな色モノ的な集団と思われるかも知れないけど、演奏技術もとても長けているのである。
そして、何より彼らの音楽はとてもインテリジェントに溢れていて僕は愛して止まない。
アメリカの現代音楽の作曲家フィリップ・グラスが彼らの音楽性に惚れ込んで楽曲を提供したといわれる Aguas da Amazonia (組曲) の冒頭の曲は僕自身何回か演奏している。

その他 2022.01.20

2ミリメートル

トルコのテレビ番組からの映像。
なにやら神聖な儀式のような、いでたちとBGM。
木片を拾う男。
少し見進めると、だいたい何をしたいのか見当が付くが、美しい映像と音楽のために最後まで付き合ってみようと思った。
が、しかし、この木片をバランスをとりながら組み上げていく造形のなんと面白いこと!
客席で口をポカンと開けて見ている女性ほどはドキドキしないのは、すでに出来上がっている映像を見ているからか。
このパフォーマンスは想像するより難しそうだ。
見ていて組み上げていく工程よりも印象深く残っているのは、男が最後に小さな木片をどかした瞬間に、バシャっと総崩れしてしまうところだ。
巨大なオールのような木片は、ほんの軽いだろうそれの消滅によるアンバランスをほんの一瞬も吸収してくれはしなかった。
この地球上では、食物連鎖のひずみや異常気象でさえ、なんとかバランスを取り戻そうとする大きな包容力を感じ、また期待もするのだけど、それは、限界点が実はよく分かっていない人類の過信と甘えと言えないだろうか。

記事の題の“2ミリメートル”は地球の直系が1メートルだとした場合の大気の層の厚さ。

音楽 2022.01.19

竹コプターおじさん

https://www.youtube.com/watch?v=vQhqikWnQCU

なんとなく知ってはいても、ちゃんと聴いたことがなかった音楽の代表格にヨーデルがある。
独特の♪ヨロレイヨロレイヨロレロヨロレロレーイ♪の面白さにコマーシャルなんかで使われても、
1曲通して聴いてみる機会はなかなかなかったのです。
ところが、たまたま縁あって出会ってしまったのが、このおじさん。
Franz Lang(フランツ・ラング)
ドイツ出身(1930年生まれ)のヨーデル歌手でギターやアコーディオンも弾くという。
バイエルン方言で歌い、なんでも、“ヨーデル王”とか“ヨーデルキング”と言われていたらしい。
民族衣装に身をかためて颯爽と登場する姿が、ほのぼのとカワイイ。それに、帽子のてっぺんで揺れているのは何?(アハハ)
この歌声はたちまちこちらの気分をまるで、バイエルンの青い空に解き放つようだ。
そういえばBMWのエンブレムはバイエルンの青い空と白い雪をイメージしたものだそうですね。
ベンツは黒でもいいと思うけど、BMWの黒って似合わない気がするのはそのせい?
まあ、そんなことはどーでもえーけど、この歌声でウキウキ気分になってくださいな(笑)

日常 2022.01.07

ピアノワークス文芸館

パリのアパートメントに仲睦まじく暮らす姉妹。
お姉さんはそれなりにお年頃。あたかも2人の男友達の間に揺れ動くスミレ花。
さてさて、なにやらドミニクから送られて来たようですね。気になりますねー。

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そんなある日、ドミニクからひと抱えもありそうな大きなお届け物が送られて来た。
なんとそれは数週間前に狩で捕らえたという獣の剥製であった。たびたび自慢の剥製のコレクションを見にいらっしゃいと誘われてはいたのだが、佳き返事をしない姉に対しての少しばかりの実力行使のようだった。
ドミニクの音楽の話しならば言わずもがなの大好物なのであるが、姉には獣の匂いがどうも苦手なのであった。添えられた手紙には、このたびの狩の朝は久々にカラヤン指揮の『ワルキューレの騎行』を大音量で聴いてからの出陣の甲斐あってか、ずいぶんと大物が仕留められた旨がしたためてあった。今まで、ドミニクからは博学且つ紳士的で思慮深い印象しか受けていなかった姉は、結構単純に憧れと羨望の眼差しを向けていたのだった。しかし、このあまりにベタな選曲と子供っぽいはしゃぎようには自分でもびっくりするくらいにドミニクに対する“熱”が冷めていくのがわかった。それと共にそばで口をあんぐりと開けたままの妹の表情からも一瞥で何を言わんとするかが読み取れた。
それならば一気にマチューに決まり!と行きたいところだが、ついさっきまでマチューのオススメの曲を立て続けに聴いていた姉に妹が何気なく言い放った。「それって結局、マチューがメメント爺さんに教えてもらった音楽ばかりなのじゃない?」決して皮肉を含んだ言葉ではなかったのだけれども、姉にはこのひと言だけで自分の立っているほんの小さな世界くらいは俯瞰して見るのに十分であった。
マチューは気の良い都会のお洒落な青年ではあるが、メメント爺さんの後を追っ駆けることで背伸びしたがっているだけかも?と。私にとって彼は言わばメメント爺さんのメッセンジャーだったってこと?と。「メッセンジャー・・・、マチュー・・・。」
以来、姉のドミニクとマチューに対する“お熱”もすっかり冷めてしまうのであった。
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ところが、数週間後。
サクレクールのカフェでは、姉妹がまるで餌をねだるひな鳥たちのようにメメント爺さんから森羅万象の話を貪るように聞き入っている様子をたびたび目にするようになるのである。
おあとがよろしいようで。

その他 2022.01.06

ピアノワークス文芸館

以前、ピアニスト三輪 郁さんのリサイタルを2回担当しました。素晴らしいベヒシュタインを擁する岡山県真庭市にある十字屋迎賓館ホール。三輪さんは長くウィーンで活動されていて、ウィーンフィルの各首席奏者からの信頼も厚くたびたび共演されています。“パユ様”ことフルートの貴公子として絶大な人気を誇るエマニュエル・パユとも共演されていたり、『のだめ』関連の音楽監修もされる他、演奏のみならず執筆やメディア出演など多方面で活躍中。今、もっともウィーンの薫りを伝える日本人ピアニストでもあります。それはそれは豊かなソバージュの御髪が印象的。妹さんの愛さんはウィーン・フォルクスオーパー管弦楽団の第一ヴァイオリン奏者。打ち上げや宿泊のホテルにクルマでお送りするなか親しくお話をさせてもらいました。お茶目な部分もありながら周囲をホワーっと温かく照らすとってもチャーミングな方です。今度はぜひ妹さんといらしてくださいとリクエストしておきました。ハイ。そんなこともあってかどういう訳か、次の日だったか、こんな小さな戯曲めいたものが浮かんで来たので勢いのまま書いたものです。舞台はウィーンではなくて1975年頃のパリ。(なお、登場人物と三輪さん姉妹は一切関係ありません)
                                            
                     - ♫ ー
そこはパリのアパートメントの一室。
アンティークな東洋の調度品とグランドピアノ。心地良いゆっくりとしたティータイム。
姉妹が束の間のお昼寝から目覚める。
「お姉様、もう一杯お紅茶はいかがですか?」「ありがとう。いただくわ」何でも相談に乗り会う近所でも評判の仲の良い姉妹。
姉には近頃気になる男友達がいる。ひとりはずいぶん年下のマチュー。サクレクール寺院の門前町のとある一画に古くからあるカフェの店員。
最近、年配のお馴染みさんとの会話が楽しくてしかたがない様子。中でも皆んなからメメント爺さんと呼ばれている丸メガネの老人はいつも分厚い皮表紙のラテン語で書かれた本を読むとは無しに小脇に抱え持ち歩いている。マチューはメメント爺さんからオススメの曲(クラシックからファドまで多彩)を教えてもらうのが習慣となりつつある。メメント爺さんからその曲にまつわるエピソードを聞いていると居ても立ってもたまらず、仕事を終えるのを待っていそいそと中古レコード屋に通う毎日。実は姉にはもうひとり、マチューとは全くタイプの違うドミニクという2つ年上の男友達がいる。ドミニクはいまだに厳然と存在する上流階級の社交界デビューに恥ずかしくない教養を身に付けようとする夢多き妙齢の子女に歴史や政治経済を教える家庭教師をしている。
カフェ店員のマチューならばいざ知らず、社交界とは何の縁もない姉がどのような経緯でドミニクと知り合ったのかは謎である。彼は狩のシーズンには森に出かけて射止めた獣を剥製にする技に長けているのだが、姉はそれには全く興味を示さないかわりに彼の膨大なクラシック音楽レコードのコレクション、それにナクソスレーベルから発掘してきた隠れた名曲の評論を聞くのが大好きである。
ドミニクは彼独自の評論に、必ず『トリストラム・シャンディ』(ローレンス・スターン著)の中の挿話と絡めるという妙な癖がある。姉にとってはそこがはなはだ難解ではあるのだけれど、ドミニクの話すリズムがとても心地よいと思っている。
妹はマチューの勤めるカフェには時折立ち寄るので彼のことを垣間見たことはあるのだが、妹だと打ち明けたことはまだない。当然ながらドミニクとは接点がない。姉からは2日にいちどくらいマチューかドミニクのどちらを男友達の一等席に据えるべきか鼻唄まじりに妹に話す。妹とすれば両者を等しく識っているわけではないので「そうねー」と言うしかないのではあるけれども、決めあぐねて悩ましげではあるがご機嫌な姉と居るのは嫌ではない。 マチュー経由のメメント爺さんオススメの曲とドミニクお気に入りの曲のレコード盤に交互に針を落とす姉をちょっと可愛くさえ思う。
悩み多き恋話を相変わらずウキウキと話す姉ではあるが、近頃はその声の調子にアンニュイな塩梅を付け加える術を獲得してきたようだ。
妹はと言えばどちらが姉だかわからない様子で、よしよしと聞いている。 
そんなある日、ドミニクからお届け物が送られて来たのであった。 
~つづく~